2025年7月14日、「VAMPIRE CAFE」や「わらやき屋」といった個性的な飲食店で知られる株式会社DDグループが、MBO(マネジメント・バイアウト)によって株式を非公開化することを発表しました。これは、同社を創業から率いてきたカリスマ経営者・松村厚久氏が、投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループと手を組み、会社の次なる成長ステージを目指すための大きな決断です。
なぜいま、DDグループは上場廃止という道を選んだのでしょうか。その背景にある会社の歴史と、未来に向けた戦略を分かりやすく解説します。

DDグループのこれまでと松村氏の経営哲学
DDグループの歩みは、2001年に銀座で開店した「VAMPIRE CAFE」から本格的に始まりました。ドラキュラの館をテーマにした独創的な空間は大きな注目を集め、エンターテインメント性の高い飲食店という同社の方向性を決定づけました。
その後、松村氏が掲げたのが「100店舗100業態」という目標です。これは、同じブランドを多店舗展開する当時の主流とは異なり、一つひとつコンセプトの違う店を創り出していくという挑戦的な戦略でした。多くの困難を乗り越え、2010年にこの目標を達成したことで、DDグループは外食業界で「創造性」の象徴的な存在として知られるようになりました。
この独創的な経営を牽引してきた松村氏のリーダーシップの根底には、自身の経験から生まれた「熱狂」という哲学があります。38歳の時に若年性パーキンソン病と診断された松村氏は、その逆境をエネルギーに変え、情熱を持って仕事に取り組む姿勢を貫いてきました。その姿は、著書『熱狂宣言』などを通じて多くの人に知られ、従業員やパートナーを惹きつける強い求心力となっています。

なぜいま、MBO(非公開化)に踏み切ったのか
いま回のMBOの背景には、DDグループの好調な業績があります。コロナ禍で大きな打撃を受けましたが、徹底した経営改革によってV字回復を達成。2024年2月期には過去最高益を更新するなど、力強い経営基盤を確立しました。
このタイミングで非公開化に踏み切る最大の目的は、株式市場の短期的な視点に左右されず、中長期的な視点で大胆な成長戦略を実行するためです。
DDグループが発表したいま後の重点戦略は、以下の通りです。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)への大規模投資
- 新規事業の開発
- 本格的な海外展開
これらは、いずれも大きな先行投資が必要であり、成果が出るまでに時間がかかります。上場を維持していると、四半期ごとの決算や日々の株価の動きを意識せざるを得ず、短期的に利益を圧迫する可能性のある大きな挑戦には踏み出しにくい側面があります。
株式を非公開化することで、市場からの圧力に捉われることなく、腰を据えて未来のための投資に集中できる経営環境を整えることが、いま回のMBOの狙いです。

新たなパートナー、ポラリス・キャピタル・グループ
いま回のMBOを主導するのは、独立系の投資ファンドであるポラリス・キャピタル・グループです。ポラリスは、投資先企業の経営に深く関与し、その価値向上を支援することで知られています。
今回のMBOでは、ポラリスがDDグループの株式の大部分を取得しますが、松村社長も一部株式を保有し、引き続き経営のトップとして指揮を執ります。これは、敵対的な買収ではなく、両者がパートナーとして共に成長を目指す友好的なMBOであることを示しています。
このパートナーシップにより、以下のような相乗効果が期待されています。
- DDグループの強み: 松村氏の持つ独創的なアイデアやブランド構築力、そして「熱狂」を原動力とする企業文化。
- ポラリスの強み: 豊富な資金力、DXや海外展開といった戦略を実行するためのノウハウ、そして客観的な視点からの経営管理体制の構築。
つまり、松村氏の持つ「創造性」というエンジンに、ポラリスの持つ「戦略実行力」というアクセルとナビゲーションシステムを組み合わせ、会社の成長をさらに加速させようという試みです。

次なる成長ステージに向けた戦略的な一手
DDグループのMBOは、コロナ禍という大きな危機を乗り越え、過去最高益を達成したいまだからこそ可能な、未来に向けた戦略的な一手と言えます。
創業以来の強みである「創造性」や「熱狂」の文化を大切にしながら、そこに投資ファンドの持つ経営ノウハウや資金力を掛け合わせる。これにより、これまで以上に大胆で、かつ計画的な成長を目指していくことになります。
株式市場という舞台から一度離れる決断を下したDDグループが、この新たなパートナーシップのもとでどのような未来を描いていくのか、いま後の展開が注目されます。
