2025年7月11日に発表されたドトール・日レスHDの第1四半期決算は、売上が6.5%増加したにもかかわらず、営業利益が6.5%減少するという「増収減益」の結果となり、市場に衝撃を与えた。好調に見えた裏で何が起きていたのか。
ポイント1:コスト高騰の「ダブルパンチ」が利益を直撃
増収で得た利益を、想定以上のコスト上昇が完全に飲み込んでしまった。
- 原材料費の高騰: コーヒー豆や乳製品に加え、特に「米」の価格が記録的に高騰したことが大きな打撃となった。これにより、売上に対する儲けの割合を示す粗利益率は1.6ポイントも悪化した。価格転嫁が追いつかず、コスト増を自社で吸収せざるを得なかった。
- 事業運営コストの増加: 人手不足を背景とした人件費の上昇に加え、「2024年問題」に起因する物流費の高騰も重荷となった。これらの販売管理費は計画を上回り、予算未達の大きな要因となっている。

ポイント2:社内で起きていた「業績の二極化」
いま回の減益の震源地は、ドトール全体の問題ではなかった。連結決算の内訳を見ると、2つの主要事業の明暗がくっきりと分かれている。
- 好調だった「ドトールコーヒー」事業:
- 営業利益は6.9%増加した。
- 好調の理由は、カフェ店舗だけでなく、スーパーや通販向けの卸売事業が大きく伸びた。この事業は店舗運営に比べてコスト高の影響を受けにくく、収益の安定装置として機能した。
- 不振だった「日本レストランシステム」事業:
- 営業利益は15.9%もの大幅減少となった。
- 不振の理由は、「洋麺屋五右衛門」や「星乃珈琲店」などを運営しており、米やパスタといった多様な食材の価格高騰の影響をより深刻に受けたためである。また、地方の郊外店舗が苦戦していることも明らかにされている。
結論として、日本レストランシステム事業の深刻な不振が、好調なドトールコーヒー事業の利益を打ち消し、会社全体の減益を招いた、というのが実態である。

ポイント3:フランチャイズに忍び寄る「見えざる影」
全国に約900店舗を展開するフランチャイズ(FC)網は、ドトールの根幹である。一見、FC向けの売上や店舗数は安定しているように見えるが、コスト高騰は静かに影を落としている。
本部(ドトール)は、高騰した原材料費の一部を自社で吸収しつつも、FC加盟店への卸売価格をある程度引き上げざるを得なかったと考えられる。その結果、FC加盟店は「本部からの仕入れ価格上昇」と「顧客への価格転嫁の難しさ」の板挟みになり、利益率が圧迫されている可能性がある。
これは本部の決算書には直接表れない「見えざるリスク」である。加盟店の経営体力が削がれれば、長期的には新規出店の停滞やブランド価値の毀損に繋がりかねない。
岐路に立つドトール、通期目標達成への険しい道のり
会社側は通期の業績予想を据え置いたが、その達成は極めて困難な挑戦である。第1四半期の遅れを取り戻すには、残りの9ヶ月間で前年同期比18%もの大幅な増益を達成する必要がある。
いま回の決算は、ドトール・日レスHDが単なるコスト高だけでなく、事業ポートフォリオの弱点や、FCモデルの持続可能性という構造的な課題に直面していることを浮き彫りにした。同社はいま、まさしくブランドの未来を左右する重要な岐路に立たされている。
