トリドールHD、売上最高益の裏で露呈した「利益構造の脆弱性」

2024年11月14日に発表されたトリドールホールディングス(HD)の2025年3月期第2四半期決算は、数字のコントラストが際立つ結果となった。連結売上収益は中間期として過去最高の515億77百万円を達成し、前年同期比で27.4%の大幅増収を記録した。しかし、その内実を見ると、連結事業利益は9億18百万円に留まり、前年同期比で45.6%の大幅減益という構造的な課題が露呈したのだ。

この売上最高と利益半減という矛盾は、成長の質を問うものである。売上増は、英国のFulham Shore社の連結化や、円安による為替影響(連結売上収益の増減額に対し約7%寄与)といった外的要因に強く支えられたものであり、足元のコスト増と海外事業の収益性悪化が利益面を直撃した。利益がほぼ半減した事実は、M&A後の統合コストやグローバルインフレの吸収ができておらず、本業の収益基盤に深刻なコスト圧力がかかっていることを示唆する。

丸亀製麺が確保した「鉄壁な収益構造」:利益率17.5%

連結利益の急落を辛うじて食い止めたのは、国内の柱である「丸亀製麺」事業の圧倒的な強さである。

国内丸亀製麺セグメントの売上収益は651億34百万円を計上し、前年同期比で11.6%増となった。さらに、セグメント事業利益は113億93百万円と、売上・利益ともに中間期として過去最高を達成した。

特筆すべきは、この事業の利益率が17.5%という高水準に達した点だ。経済産業省の発表によれば、2024年上期の「飲食店、飲食サービス業」は回復傾向に一服感が見られ、業界全体に減速感がある。このようなマクロ環境下で17.5%の利益率を確保したことは、丸亀製麺の圧倒的なブランド力と効率的なオペレーションが機能していることを証明する。

売上増の牽引役は、定番商品と季節限定のフェア商品の「ハイブリッド戦略」にある。例えば、過去に342万杯を売り上げた実績を持つ「鬼おろし肉ぶっかけ」のような限定メニューの成功が、顧客の来店頻度維持と客単価向上に寄与している。連結事業利益9億円に対し、丸亀製麺単体で113億円の利益を稼ぎ出している事実は、トリドールHDが国内の丸亀製麺事業に構造的に依存している状況を明確に示している。

海外事業の大誤算:M&Aと円安効果を上回る減益幅

連結利益を大幅に引き下げた主因は、積極的なグローバル展開を進める海外事業にある。

海外事業の売上収益も中間期過去最高の515億77百万円となり、連結業績に貢献したが、事業利益は前年同期比で45.5%減9億18百万円に急落した。

海外事業の売上高に対する利益率は約1.8%にすぎず、国内丸亀製麺の17.5%と比較して極めて低水準である。売上増の要因には、Fulham Shoreの連結や為替影響(約+7%)が明確にあったにもかかわらず、その増収効果はコスト増に打ち消された。これは、現地でのインフレ(特に人件費・原材料費)によるコスト高騰や、M&Aに伴う初期の販管費(SG&A)の大幅増加が原因である。M&Aによる売上の上乗せは達成したが、「稼ぐ力」(利益率)が急激に落ち込んでいる状況は、買収資産の収益化において深刻な課題を抱えていることを示唆する。

成長の代償:利益計画下方修正が示す「丸亀頼み」の限界

国内丸亀製麺の鉄壁な収益構造にもかかわらず、トリドールHDは通期連結業績予想の下方修正を余儀なくされた。

売上収益の予想(2,650億円)は据え置かれたが、事業利益は期初計画の181億円から173億円へと引き下げられた。

この下方修正は、海外事業の収益性悪化が一時的ではなく、下期にかけても構造的な課題として継続すると経営陣が判断したシグナルである。構造的なコスト圧力が、国内丸亀製麺の利益超過分を上回る規模で発生している。連結全体が国内丸亀製麺の強力な収益性に依存する「一極集中」の構造は変わっていない。トリドールHDの今後の成長戦略は、この「丸亀頼み」を維持しつつ、海外事業でいかに利益率を早期に改善できるかにかかっている。投資家は売上高ではなく、海外事業の収益改善動向を注視すべきである。

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