2025年9月の外食市場は、厳しい現実を突きつけられた。夏休み明けの需要減速期であることに加え、今年は特に厳しい残暑と止まらない物価高騰が消費者の財布の紐を直撃した。「外食控え」と「節約志向」。この二つのキーワードが、業態ごとに残酷なまでの明暗を分けた。
一般社団法人日本フードサービス協会(JF)が発表した2025年9月度の市場動向調査(全店データ、前年同月比)によれば、外食全体の売上は104.8%となった。数字だけ見れば4.8%のプラス成長である。しかし、この数字に安堵してはならない。実態は、客単価が103.4%と上昇した一方で、客数は101.3%の微増にとどまった。「客単価アップ」でかろうじて売上を維持したというのが実態だ。
この全体像の中で、唯一「勝ち組」と呼べるのがファーストフード(FF)業態である。そして、それ以外の業態の多くが「客数減」という深刻な問題に直面している。本稿では、この9月のデータを徹底的に解剖し、消費マインドの「今」を浮き彫りにする。
独走するFF、値下げ戦略も奏功
まず、市場の牽引役となったFF業態を見る。FF全体の売上は106.1%。客数も102.6%と、主要業態の中で明確に「客を呼べた」カテゴリーとなった。客単価も103.5%と堅調だ。
内訳が興味深い。「和風」(牛丼など)は、売上110.1%という驚異的な数字を記録した。これは、一部企業による主力商品の値下げなどが客数回復に寄与し、同時に投入された期間限定メニューも好調だった結果だ。デフレマインドが強まる中、明確な「安さ」の提示が消費者に響いた証左である。
「洋風」(ハンバーガーなど)も売上106.6%と強い。客数は104.7%に達しており、定番の季節限定メニューや新商品の投入が引き続き集客に成功している。「麺類」(うどん・そばなど)も売上108.5%、客数104.3%と絶好調。9月の厳しい残暑の中、あえて投入した「冷たい期間限定メニュー」などが消費者の心を掴んだ。
一方で、FF業態内でもブレーキがかかった分野がある。「持ち帰り米飯/回転寿司」だ。売上は97.7%と前年割れに沈んだ。客数も92.7%と大幅に減少。回転寿司が月後半の連休で一部盛り返したものの、夏休みの需要が一段落した反動減をカバーできなかった。
「その他」に分類される「アイスクリーム」は、売上103.3%を記録。毎月替わる人気キャラクターとのコラボ商品が好評で、目的買いを創出した。
FF業態の強さは、「手軽さ」「安さ」という基本価値に加え、季節やトレンドを捉えた「新メニュー開発力」、そして時には「値下げ」という直接的な価格戦略を打てる機動力にあることが再確認された。
FRの受難。「焼き肉」に急ブレーキ
対照的に、「節約志向」の直撃を食らったのがファミリーレストラン(FR)業態だ。
FR全体の売上は102.5%。数字上はプラスだが、その中身は深刻だ。客数が98.8%と、前年同月比でマイナスに転落した。売上を支えたのは、客単価が103.8%と上昇したことによるものだ。夏休みが明け、外食需要が一服したことに加え、9月は前年より土日が少なかった曜日まわりも響いた。
業種別に見ると、FRの苦悩がより鮮明になる。
「焼き肉」は、売上92.7%と壊滅的な落ち込みを見せた。客数は86.7%と、13%以上も客が減少した計算だ。夏休み期間中に集中した若年層や家族客の集客が一服し、客足が完全に途絶えた格好だ。高単価業態である焼き肉は、真っ先に「節約」の対象となった。
「洋風」は売上103.8%、「和風」は104.5%、「中華」は104.9%と、それぞれ売上は確保した。しかし、これは客単価の上昇によるもので、「洋風」の客数は99.9%、「和風」は98.5%、「中華」は99.8%と、軒並み前年を割り込んでいる。
ただし、FRの中でも「低価格業態」は比較的堅調だった。「洋風」では低価格業態が全体の客数を下支えし、「和風」でも客単価の低い業態が健闘した。FR市場は、高単価の「ハレの日」需要が剥落し、「安く、手軽に」という日常使いの業態だけが生き残るという、FF市場に近い構造変化を見せ始めている。
客足遠のく「飲酒業態」と「喫茶」
消費マインドの冷え込みは、単価が高くなりがちな「夜」の業態と、「嗜好品」の業態にも及んだ。
「パブ・居酒屋業態」の売上は100.9%。かろうじて前年を上回ったが、内訳はFRと同じく客数減(98.6%)を客単価上昇(102.3%)で補った形だ。月前半を中心に個人客、宴会ともに伸び悩んだ。さらに、上旬に発生した台風によるキャンセルも追い打ちをかけた。リーズナブルな価格で集客できた一部の店もあったが、全体としては停滞感が否めない。
「ディナーレストラン業態」は売上103.9%と健闘した。客数も102.4%とプラスを維持。これは、好調なインバウンド需要の取り込み(ただし企業・店舗によって差は出ている)や、連休中の家族需要が一部で好調だったことが要因だ。また、終盤に近づいた「大阪・関西万博」の訪問者で、大阪ターミナル周辺の一部店舗が引き続き賑わいを見せたことも特殊要因として挙げられる。
最後に「喫茶業態」を見る。売上は107.9%と非常に高い伸びを示した。だが、これも手放しでは喜べない。客数は99.6%と微減しているからだ。この売上増は、108.4%という極めて高い「客単価」の上昇によってもたらされた。物価上昇による価格転嫁が、他の業態に比べて最も進んだ(あるいは、進めざるを得なかった)業態であることを示している。ターミナル周辺立地や万博周辺では集客が前年を上回る店もあったが、業態全体としては客離れが静かに始まっている。
「選別」の時代、価格戦略がカギ
2025年9月の外食市場は、「消費者の厳しい選別」が始まったことを示すデータとなった。
物価高騰と節約志向に対し、FF業態は「値下げ」「新商品」「コラボ」といった具体的な戦略で客数を維持・増加させた。一方、FRや居酒屋は客数減に苦しみ、客単価の上昇で売上を維持するのが精一杯だった。「焼き肉」のように、ハレの日需要に依存していた業態は、節約の波に真っ先に飲み込まれた。
消費者は「なんとなく外食する」ことをやめ、「この価値(安さ・新しさ・体験)だから行く」という明確な動機で店を選んでいる。この選別の流れは、年末商戦に向けてさらに加速するだろう。客単価を維持しつつ、いかにして客足を店に向けさせるか。企業の価格戦略と商品開発力が、これまで以上に厳しく問われる局面に入った。




