松屋フーズホールディングス(9887)が2025年11月7日、令和8年3月期第2四半期決算を発表した。
数字は鮮烈だ。売上高879億46百万円(前年同期比21.5%増)。営業利益28億29百万円(同50.1%増)。経常利益32億42百万円(同46.9%増)。そして、親会社株主に帰属する中間純利益は12億93百万円(同65.1%増)。
外食産業が直面するコスト高騰を、真正面から打ち破る内容である。
悪化したFL比率
だが、これはコスト削減による勝利ではない。
決算短信は「原料、資材、人件費、エネルギー単価の高騰」に明確に言及している。事実、原価率は前年同期の35.1%から37.1%へと2.0ポイント「悪化」した。
飲食店の経営で最も重要な指標であるFL比率(食材費+人件費の売上高比)も、66.5%から66.8%へと上昇している。業界平均の約60%を大きく超える重圧だ。
利益50%増の「解」
では、コストが悪化しているのに、なぜ営業利益が50.1%も増えたのか。
答えは「営業レバレッジ」の解放にある。
営業レバレッジとは、売上高の増加が利益をどれだけ押し上げるかを示す指標だ。家賃や本社人件費など固定費の比率が高い飲食店は、損益分岐点を超えると利益が爆発的に増える。この効果が出やすい。
松屋は、既存店売上高を「112.7%」という驚異的な水準に引き上げた。
売上が爆発的に増えた結果、売上高に占める販売費及び一般管理費(販管費)の割合は、前年同期の62.3%から59.7%へと2.6ポイントも「改善」した。
増加したコスト(変動費)を、それを上回る圧倒的な売上(固定費吸収)で粉砕したのである。
エンジンは「世界紀行」
売上112.7%の原動力は、他社を圧倒する商品開発力だ。
決算短信で名指しされた「松屋の世界紀行シリーズ」が牽引した。セネガル料理「マフェ」は、SNSで「本場に近い」と絶賛され、発売初週に売り切れが続出した。韓国発の旨辛グルメ「ロゼクリームチキン」も「ご飯に合いすぎる」と大ヒットを記録した。
これらは単なる新商品ではない。原価率37.1%という高いコストを許容してでも「本格的な体験」を売るという、明確な戦略だ。
時代が戦略を後押し
この戦略は、現在のマクロ環境とも完璧に符合している。
2025年9月、厚生労働省発表の実質賃金は1.4%減。これで9ヶ月連続のマイナスである。だが、消費者物価指数は3.4%上昇した。
国民は「物価高・賃金安」に直面している。消費者は高額な旅行や贅沢ができない。そこで、1,000円以下でセネガルや韓国への「食の旅行体験」を提供する松屋の戦略が、この「安価な贅沢」を求める需要を捉えた。
同時に、インバウンド需要も旺盛だ。2025年1〜9月の訪日客は過去最速で3000万人を突破した。定番の「牛めし」や「チーズバーガー丼」 といったユニークな商品が、この需要も取り込む。
競合を圧倒する伸び
競合他社との比較も鮮明だ。
吉野家ホールディングスは、2025年10月9日発表の第2四半期決算(2026年2月期)で、既存店売上高は107.5%(+7.5%)、営業利益は+19.5%だった。
ゼンショーホールディングス(すき家)の既存店売上高は、2025年7月時点で106.8%(+6.8%)である。
全社が好調な中、松屋の既存店「+12.7%」が突出している。
「体験」を売る企業へ
松屋は、コスト削減(守り)ではなく、高付加価値な「体験」を売る(攻め)ことで、営業レバレッジを最大化した。
当中間期も、牛めし業態40店舗に加え、「鮨業態」4店舗を含む51店舗の新規出店と126店舗の改装という積極投資を継続している。新業態「すし松」でも、「1貫70円」という集客商品と「本鮪」という体験商品を組み合わせ、この勝利の方程式を横展開する構えである。




