Genky DrugStoresが絶好調である。29日発表の2025年7〜9月期連結決算は、純利益が前年同期比29%増の20億円に達した。売上高も12%増の560億円と、利益が売上を倍以上のペースで上回る。通期の売上高2218億円(前期比11%増)、純利益75億円(6%増)の予想は据え置くが、この快進撃はどこから来るのか。
利益を叩き出すコスト削減術
利益成長の源泉は、販管費の徹底した圧縮にある。全店へのセルフレジ導入が完了し、人件費を抑制。さらに電気代の安定化も追い風となり、営業利益率は前年同期の4.5%から5.2%へと大きく改善した。チラシを3週間に1度に減らし、日替わり特売を廃止する「EDLP(エブリデー・ロープライス)」戦略で浮いたコストを、そのまま価格に還元している。
政府備蓄米という名の集客装置
象徴的なのが「政府備蓄米」の活用である。契約した6000トンのうち95%をこの3ヶ月で販売し、21億円の売上を計上した。これは単なる売上増ではない。物価高に苦しむ消費者を店舗に呼び込む強力な集客装置として機能し、「安さのゲンキー」というブランドイメージを決定づけた戦略的な一手である。コスモス薬品など他社も追随したが、ゲンキーの規模とスピードが際立った。
強さの心臓部、「自前主義」
この強さを支えるのが「自前主義」と呼ばれる独自のビジネスモデルだ。不動産開発から物流、さらには生鮮食品の加工までを内製化し、中間マージンを徹底的に排除する。標準化された300坪の「フード&ドラッグ」業態を、商圏人口3000人の過疎地でも成立させる驚異的な効率性を誇る。
モデルの心臓部が、子会社ゲンキー食品が運営するプロセスセンター(PC)である。ここで精肉や惣菜を集中加工し、店舗へはパック詰めで配送する。これにより、店舗での専門作業が不要となり、スーパーマーケットでは不可能なレベルまで人件費を圧縮。業界最安水準の坪当たり経費20万円を実現している。
時代の追い風を掴む
このモデルは、まさに今の日本市場に最適化されている。消費者物価指数が前年比2.9%上昇し、特に食品価格が高止まりする中、消費者の「節約志向」は極限まで高まっている。ゲンキーの既存店客数が通期で4.7%も伸び続けている事実は、消費者が価格に最も敏感なスーパーからゲンキーへと主戦場を移している証左だ。
もはや競合はスーパーマーケット
ドラッグストア業界は今、戦略の分岐点を迎えている。以下の表に示すように、各社が異なる戦略で棲み分けを図っている。
| 企業名 | 主要ビジネスモデル | 食品売上比率(%) | 主要な店舗形態・立地 | 差別化要因 |
| Genky DrugStores | 食品ディスカウンター | 約69 | 郊外・小商圏、標準化300坪 | 圧倒的な低価格、生鮮食品 |
| コスモス薬品 | 食品ディスカウンター | 約61 | 郊外ロードサイド、大型店 | EDLP、生活必需品の品揃え |
| マツキヨココカラ | 都市型ビューティー&ヘルス | 約34 | 駅前・繁華街 | 化粧品、医薬品、PB商品開発力 |
| ウエルシア・ツルハ連合 | 地域密着型ファーマシー | – | 郊外・都市部、調剤併設 | 調剤機能、地域医療インフラ化 |
出典: 各社資料、業界レポートより作成
ゲンキー(食品構成比約69%)やコスモス薬品(同約61%)が「食品スーパー」化を進める一方、マツキヨココカラは都市部の化粧品(同約34%)、ウエルシア・ツルハ連合は調剤を軸にすみ分ける。ゲンキーの真の競合は、もはやドラッグストアではなく、旧来型のスーパーマーケットそのものである。
福井を起点としたドミナント戦略で地盤を固め、年間54店という過去最高のペースで出店を続けるゲンキー。その低コストマシンは、インフレが続く日本経済において、小売業界の勢力図を根底から塗り替える可能性を秘めている。




