ケーズHD、純利益18%増の「死角」

2025年11月6日、ケーズホールディングス(HD)が好調な決算を発表した。2025年4-9月期の連結純利益は105億円。前年同期比18.3%増という力強い数字だ。営業利益も130億円と10%伸びた。

だが、市場の反応は冷たかった。決算が発表された午前11時30分、ケーズHD株は急落。一時、前日比53円(4%)安の1440円まで下落し、結局2%安の1461円で取引を終えた。

なぜ「増益決算」が売られたのか。答えは一つ。売上高と営業利益が、市場予測の平均である「QUICKコンセンサス」に届かなかったからだ。18%増益という数字の裏には、市場が即座に見抜いた「利益の中身」の問題が隠されている。

二つの「神風」が作った売上

まず、本業の売上高だ。結果は3766億円。前年同期比1.0%の微増である。しかも、このわずかな成長は、二つの強力な「外部要因」によってかろうじて支えられたものだ。

第一は「PC特需」である。米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポートが2025年10月に終了した。これが、駆け込みの買い替え需要を爆発させた。このPC更新需要は世界的な現象だ。調査会社IDCによれば、2025年第3四半期(7-9月)の世界PC出荷台数は前年同期比9.4%増の7580万台に達した。 なかでも日本市場は二桁成長を記録し、世界市場を牽引したという。

第二は「天候」だ。記録的な猛暑でエアコン販売が絶好調だった。日本気象協会のデータも、2025年夏が「全国的な猛暑」であり、9月に入っても「平年よりかなり高く、残暑が厳しい」と裏付ける。

しかし、柱である白物家電は、冷蔵庫などが低調だった。これは業界全体の問題であり、日本電機工業会(JEMA)も2025年7月の国内出荷金額が「消費者の節約志向」により4カ月ぶりにマイナスに転じたと発表している。

つまり、ケーズHDの1%成長は、自社の戦略的勝利ではなく、OSの期限切れと猛暑という二つの「神風」が吹いた結果といえるのだ。

利益10%増の「カラクリ」

では、営業利益10%増(130億円)はどうか。決算短信を解剖する。

日経記事は、「賃上げなどで人件費は上がったが、前期に減損損失を計上したことで減価償却費が減って販管費の伸びが抑えられた」と指摘している。

「給料及び手当」と「賞与引当金繰入額」を合わせた人件費関連コストは、前年同期比で約7.5億円増加した。これは賃上げの圧力だ。

ところが、同期間の「減価償却費」は5.8億円も減少している。減価償却費とは、店舗や設備などの資産コストを会計上、その耐用年数にわたって分割計上する費用だ。

なぜ減ったのか。記事は「前期に減損損失を計上した」ためと示唆する。減損損失とは、資産の価値が大きく下がった時に、前倒しで「損失」として計上する会計処理だ。つまり、前期に資産価値の目減りを「損」として計上した結果、今期の会計上の費用が5.8億円浮いたのだ。

7.5億円のコスト増が、5.8億円の「会計上の利益」でほぼ相殺された。これが営業利益10%増の実態である。

費用項目 (2025年4-9月期)2024年同期 (百万円)2025年同期 (百万円)増減 (百万円)利益への影響
人件費関連 (給料+賞与)29,15529,904+749マイナス
減価償却費7,1636,581-582プラス
販管費 合計90,71991,363+644

岐路に立つ家電量販

この「会計上の勝利」は、ライバル他社との比較でさらに鮮明になる。PC特需と猛暑は、全社共通の条件だ。だが、利益には差が出た。

最大手ヤマダHDは、売上高が0.5%増と横ばい。ケーズと同じくPC需要は捉えた。しかし、主力のデンキ部門の営業利益は18.2%の「激減」となった。

理由は、「くらしまるごと」戦略への巨額の先行投資だ。ポイント施策を強化し、LABI津田沼店やLABI仙台店など、大型店も閉鎖した。ヤマダは未来の変革のために「今」の利益を意図的に捨てている。

一方、エディオンはケーズと酷似する。売上高は1.4%増。 だが、営業利益は4.9%減、純利益は6.9%減だった。ケーズの「会計マジック」が無かったエディオンは、コスト増を吸収できず減益に沈んだ。

ケーズの10%増益が、「守り」の経営と会計処理の産物であったかがわかる。

競合比較 (2025年4-9月期)売上高 (前年比)営業利益 (前年比)純利益 (前年比)概要
ケーズHD+1.0% +10.0% +18.3%会計処理で利益創出
エディオン+1.4% -4.9% -6.9%コスト増を吸収できず
ヤマダHD+0.5% -6.7% +0.1%(デンキ部門は-18.2%)

72%配当性向の意味

市場が株を売った最後の理由。それは経営陣が発した「シグナル」だ。

ケーズHDは、これだけの増益を発表したにもかかわらず、2026年3月期の通期業績予想を「据え置いた」。 売上高7550億円(前期比2.3%増)、純利益100億円(同5.0%増)という当初計画は変わらない。

これは経営陣が「上期の好調は続かない」と自ら認めた格好だ。実際、この計画を達成するには、下期(10-3月)の経常利益は前年同期比で2.1%減少する計算になる。

成長の「白旗」を上げたのだ。

その代わり、株主への「手土産」として年間配当を従来予想から2円引き上げ、46円とした。 これにより、利益の何割を配当に回すかを示す「配当性向」は72%に達する。72%は異常に高い。稼いだ利益の7割以上を配当として配り、たった3割弱しか未来の成長に再投資しない、という宣言だ。

市場は、この「会計上の利益」と「成長の放棄」というシグナルを見抜き、18%増益という数字の前提を好ましくなくうけとった。これが株価急落の全貌である。

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