G-7HD、増収の裏の利益格差。記念増配が示す次の一手

異例の記念増配

2025年10月30日、G-7ホールディングスが市場に投じたのは、単なる決算報告ではなかった。それは、株主に対する強烈なメッセージであり、将来への絶対的な自信の表明であった。同社はこの日、2026年3月期の年間配当予想を、当初計画の1株あたり40円から70円へと、一気に30円も引き上げることを発表したのである。

この大胆な増配の内訳は、同社の戦略を物語る。すでに公表されていた20円の中間配当と20円の期末普通配当はそのままに、1株あたり30円という破格の「創業50周年記念配当」を上乗せする。企業経営において、増配、特にこれほど大規模な特別配当は、経営陣が「将来のキャッシュフローは盤石である」と宣言するに等しい。この発表を受け、同社の株価は上昇した 。

しかし、この一手は、より計算された戦略的意図を内包している。なぜなら、この発表は、同社の屋台骨である業務スーパー事業の利益が減少したという事実と同時に行われたからだ 。通常、主力事業の利益減は投資家の不安を煽る。G-7ホールディングス経営陣は、このネガティブな情報を打ち消すために、増配という最も分かりやすいポジティブなカードを切った。

これは、「業務スーパーの拡大に伴うコスト増は一時的なものだ。我々の財務基盤は揺るぎなく、これだけの還元を行う体力がある」という無言のメッセージである。この戦略的コミュニケーションにより、配当利回りは5.47%という市場で極めて魅力的な水準に達し 、新たな投資家層を惹きつける強力な磁力となる。

まだら模様の成長絵図

2025年10月30日に発表されたG-7ホールディングスの2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~9月30日)連結決算は、一見すると順風満帆である。しかし、その内実を解剖すると、事業ごとに全く異なる景色が広がっている。

まず、会社全体の数字を確認する。

指標2026年3月期 第2四半期 (25年4-9月)前年同期比
売上高1,106億5,800万円+9.6%
営業利益30億5,700万円+7.1%
経常利益32億7,500万円+7.5%
親会社株主に帰属する中間純利益22億3,800万円+9.7%

連結ベースでは力強い増収増益だ。しかし、G-7ホールディングスの真の姿は、4つの事業セグメントを分解することで明らかになる。

事業セグメント売上高前年同期比経常利益/損失前年同期比
業務スーパー事業654億9,000万円+11.8%22億1,100万円-3.6%
車関連事業219億3,000万円+4.0%6億2,700万円+10.6%
精肉事業105億2,600万円+4.0%900万円 (損失)(損失縮小)
その他事業127億1,100万円+13.3%2億1,100万円+18.2%

この表が示すのは、巧みなポートフォリオ経営の実態だ。売上の過半を占める業務スーパー事業が利益面で足踏みする一方、他の事業がその穴を埋め、会社全体の成長を牽引している。

業務スーパー:成長の代償

業務スーパー事業は、売上高が前年同期比11.8%増の654億9,000万円と、依然として会社の成長エンジンであることに変わりはない 。期間中に中部圏に3店舗、近畿圏に1店舗をオープンし、総店舗数は219店舗に達した 。物価高騰が続くなか、低価格戦略が消費者の心を掴んだ結果だ。

しかし、経常利益は3.6%の減少 。会社側はその要因を、①新規出店費用、②既存店のリニューアル費用、③のれん償却費の増加、と説明する 。「のれん」とは、過去のM&A(企業の合併・買収)の際に発生した会計上の資産であり、その償却が継続的に利益を圧迫していることを示す。

短期的な利益を犠牲にしてでも拡大を急ぐのは、インフレ下の節約志向という追い風に乗り、競合から市場シェアを奪うための戦略的投資である。これは長期的な覇権を握るための「成長痛」と解釈できる。

利益の柱:車関連とその他

業務スーパーが未来への投資フェーズにあるなか、他の事業が現在の利益を稼ぎ出している。

車関連事業は、売上高が4.0%増の219億3,000万円、経常利益はそれを上回る10.6%増の6億2,700万円を記録した 。タイヤやオイルといった消耗品の販売に加え、利益率の高いタイヤ交換工賃などのサービス販売が伸びたことが利益率改善に貢献した。さらに、バイク用品店「バイクワールド」をマレーシアに初出店し、総店舗数を20店舗としたことは、海外展開への第一歩となる 。

その他事業の伸びはさらに著しい。売上高は13.3%増、経常利益は18.2%増だ 。これは、卸売の「こだわり食品」の取引先開拓と、ミニスーパー「リコス」の不採算店整理による収益性改善が結実したものである。

これらの安定収益事業が生み出すキャッシュが、業務スーパー事業の積極的な拡大戦略を財務面で支えている。これは、各事業が有機的に連携する、計算され尽くしたエコシステムなのである。

精肉事業:逆風との戦い

精肉事業は、首都圏1店舗、中部圏3店舗、近畿圏1店舗の新規出店により、総店舗数が184店舗となり、売上高は4.0%増の105億2,600万円を確保した 。しかし、900万円の経常損失を計上し、黒字化は果たせなかった(前年同期は3,800万円の損失) 。

会社側は、原材料価格や物流費の高騰に加え、猛暑による国産豚肉の生産量減少と、それに伴う相場急騰が利益を圧迫したと説明している 。これは市況に左右されやすい事業の難しさを示すものであり、サプライチェーンの脆弱性という課題を浮き彫りにしている。

下半期への高いハードル

G-7ホールディングスは、今回の中間決算発表に際しても、期初に掲げた強気な通期業績予想を堅持した 。

  • 通期売上高目標:2,300億円(前期比7.4%増)
  • 通期経常利益目標:86億円(同15.2%増)
  • 通期営業利益目標:85億円(同19.3%増)

この目標達成のために、下半期(2025年10月~2026年3月)に求められる業績は極めて高いハードルだ。通期経常利益目標86億円から、上半期実績の32億7,500万円を差し引くと、下半期には53億2,500万円を稼ぎ出す必要がある。前年度の下半期実績は44億1,900万円であり 、目標達成には前年同期比で実に20.5%もの大幅な利益成長が不可欠となる 。

上半期の増益率が7.5%であったことを踏まえると、これは劇的な加速を意味する。経営陣は、新規出店した業務スーパーが下半期から本格的に収益貢献することに賭けている。

市場は、この強気なシナリオを現時点では支持している。アナリストのコンセンサスは「強気買い」で、目標株価は2,000円と、現在の株価から60%以上の上昇余地を見込んでいる。PER(株価収益率)9.81倍、PBR(株価純資産倍率)1.65倍という指標も 、株価に割高感がないことを示唆している。

今後の焦点

G-7ホールディングスの決算は、安定事業の利益を成長事業へ再投資するという、ポートフォリオ経営の教科書的な成功例を示している。そして、主力事業が「成長痛」に喘ぐ中で断行された大幅増配は、その戦略に対する経営陣の絶対的な自信の表れだ。

今後のG-7ホールディングスを占う上で、注目すべきは以下の3点である。

  1. 下半期の実行力:計画通り、前年比20.5%増という利益の急加速を実現できるか。
  2. 精肉事業の黒字化:市況変動への耐性を高め、収益化への道筋をつけられるか。
  3. 次なる成長軸:マレーシア出店を足がかりに、海外展開を本格化させるのか。

これらの問いに対する答えが、同社の次なる企業価値を決定づけることになるだろう。

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