B-R サーティワン アイスクリーム(東証スタンダード:2268)が絶好調である。10月23日に発表された2025年12月期第3四半期(1-9月期)の連結決算は、市場の予想を大きく上回るものだった 1。わずか9ヶ月間の実績で、すでに通期計画を達成するという異例の事態。その驚異的な成長のメカニズムを、具体的なデータから解き明かす。
数字で見るサーティワンの「現在地」
決算内容は衝撃的だ。1-9月期の累計経常利益は、前年同期比15.7%増の30億9600万円に達した。これは、会社が期初に発表していた通期の計画値24億6000万円を、実に25%以上も上回る数字である。
他の主要指標も軒並み好調だ。売上高は前年同期比11.7%増の258億5300万円、本業の儲けを示す営業利益は同13.4%増の30億5200万円と、全ての項目で力強い成長を記録している。
ここで、新人ビジネスマン向けに用語を簡単に解説したい。「営業利益」とは、アイスクリームの製造・販売という、その企業の本業だけで稼いだ利益のことである。一方、「経常利益」は、その本業の利益に、預金の利息や借入金の支払いといった財務活動などを含めた、会社の総合的な収益力を示す指標だ。サーティワンの場合、本業が力強く成長している上に、会社全体の経営も安定していることがこの数字から読み取れる。
成長のエンジン、「体験型」マーケティング戦略
この驚異的な成長を支えているのは、計算され尽くしたマーケティング戦略である。現在のサーティワンは単なるアイスクリーム店であることをやめ、「体験」を売るエンターテイメント企業へと変貌を遂げている。
その核となるのが、矢継ぎ早に繰り出される有名IP(知的財産)とのコラボレーションだ。2025年だけでも「ONE PIECE」「スーパーマリオ」「ポケモン」「キットカット」といった国民的人気コンテンツと次々に提携 。これらのキャンペーンは、それぞれのファン層に対し「今しか食べられない」という限定感を強く訴求し、来店を促す強力なフックとなっている。
さらに、この戦略を加速させるのが、2025年7月に会員数1000万人を突破した公式アプリ「31Club」の存在だ。新キャンペーンの告知やクーポン配布を顧客にダイレクトに行えるため、熱量の高いファンを確実に店舗へ誘導できる。このデジタルとリアルの巧みな連携が、1店舗当たりの小売売上高を過去最高に押し上げる原動力となった。
拡大するアイスクリーム市場と消費トレンド
サーティワンの成功は、追い風が吹く市場環境にも支えられている。日本のアイスクリーム市場は拡大の一途をたどっており、2024年度の市場規模(メーカー出荷ベース)は過去最高の6451億円を記録した。
この背景には、消費者の価値観の変化がある。物価高が続くなか、比較的手頃な価格で満足感を得られるアイスクリームは「プチ贅沢」の代表格となった。また、SNSの普及により、単に味を楽しむだけでなく、写真を撮って共有する「体験型消費」が消費の主流になりつつある。
サーティワンの限定コラボ商品は、まさにこの「体験型消費」のニーズに完璧に合致する。カラフルな見た目と限定パッケージはSNS映えし、消費者が自発的に広告塔となって情報を拡散してくれる。市場の大きなトレンドを的確に捉え、自社の戦略に昇華させているのだ。
サーティワンの死角と持続的成長への道筋
向かうところ敵なしに見えるサーティワンだが、死角はないのか。財務基盤は自己資本比率が51.8%と極めて健全であり、経営の安定性は高い。しかし、構造的な課題も存在する。
最大の課題は、業績の極端な季節変動である。決算データを分析すると、夏場に利益を大きく稼ぎ、冬場にあたる第4四半期(10-12月期)は赤字に陥る傾向が続いている。実際、2024年同期は2億8900万円の経常損失を計上した。今期の通期計画から逆算すると、今期の第4四半期も6億円規模の赤字が想定される。この収益構造は、投資家にとって一つのリスク要因と言わざるを得ない。
また、コラボレーションに大きく依存した戦略は、消費者に「コラボ疲れ」を招く危険性や、常に有力な提携先を確保し続けなければならないというプレッシャーもはらむ。
サーティワンの快進撃は本物である。その戦略は現代の消費者の心を的確に掴んでいる。しかし、一過性のブームで終わらず、持続的な成長を遂げるためには、冬場の収益改善という長年の課題を克服し、コラボ戦略に次ぐ新たな成長エンジンを見つけ出すことが次の挑戦となるだろう。




