日本の「かたち」が、想定以上のスピードで変わろうとしている。日本政策投資銀行(DBJ)が2025年10月24日に発表したレポート(No.437)は、衝撃的な未来予測を示した。2024年、日本の総人口に占める外国人の割合は、すでに約3%に達している。これは従来の予測を上回るペースだ。
数字が、この国の巨大な構造変化を明確に示している。総務省の人口推計によれば、2024年の1年間で「日本人」は過去最大の約90万人減少した。一方で、「外国人」は過去最大の34.7万人増加した。この「日本人の減少」と「外国人の増加」という2つの巨大なうねりが、日本の人口動態を根本から変えている。
レポートは、2025年8月の法務大臣勉強会での試算を引用し、「現在のペースが続けば2040年ごろに(外国人比率が)1割を超える」可能性を指摘する。これは、国立社会保障・人口問題研究所による従来の推計(2070年に1割達成)を、実に30年も前倒しするシナリオだ。
政府は「移民政策はとらない」との立場を堅持する。だが実態は、「労働者」を中心に外国人の受け入れが急速に拡大している。
人手不足の救世主か、あるいは社会コストの増大か。新人ビジネスマンが直視すべき「日本の今」を、DBJレポートに基づき、すべての数字と事実を網羅してスピード解説する。
欧米の「反移民」トレンド
まず、世界を見渡そう。欧米の先進国では、長らく移民が人口増加の主要因であった。しかし、その風向きは急速に変わった。
移民増加に伴う治安の悪化懸念、自国民との雇用の奪い合い、文化的な摩擦。これらに対し、国民の不満が噴出。欧州では、反移民、EU懐疑派を掲げる政党が急速に躍進している。イタリアでは2022年総選挙で「イタリアの同胞(FDI)」、オランダでは2023年総選挙で「自由党(PVV)」が第1党となった。ドイツでは2025年2月の総選挙で「ドイツのための選択肢(AfD)」が2位となり、足元では支持率1位をうかがう。フランスでも2024年下院選で「国民連合(RN)」が第1回投票で1位となり、英国では2025年5月の地方議会選で「リフォームUK」が議席を大きく獲得した。
米国でもトランプ2.0政権が発足し、移民流入制限や不法移民の取り締まりが大幅に強化された。2023年から24年にかけて年平均300万人に達した移民流入は、2025年には100万人未満のペースに鈍化する試算もある。約1,100万人の不法移民に対し、4月末までにすでに7万人弱が送還された。米国籍の「C」廃止にかかる大統領令も発出(裁判中)されるなど、欧米は明確に「移民管理の厳格化」へ舵を切っている。
急増する「労働者」という実態
世界的なトレンドとは裏腹に、日本では外国人の受け入れが実質的に加速している。
在留資格別に見ると、「専門的・技術的分野」のいわゆるホワイトカラー(IT、コンサル、通訳など)に加え、「技能実習」や「特定技能」といった分野での伸びが著しい。
日本の受け入れ制度は大きな転換点を迎えている。もともと「開発途上国への技能移転」が目的だった「技能実習」制度(2024年末時点で約45.7万人)は、人手不足対応という実態が強く、劣悪な労働環境や失踪者の問題が指摘されてきた。この制度は廃止され、2027年までに新制度「育成就労」へ移行することが決定している。
「育成就労」は、技能実習で問題視された「転職の制限」を緩和し、外国人労働者の定着率を高める狙いがある。
さらに重要なのが、人手不足が深刻な分野(2024年に12分野から16分野へ拡大)で即戦力となる「特定技能」制度(2024年末時点で約28.4万人)だ。
注目すべきは、「育成就労」から「特定技能」への移行が円滑化される点である。「特定技能1号」は最長5年だが、「特定技能2号」(2023年に2分野から11分野へ拡大)は熟練した技能が求められる代わりに、在留期間の上限がなく、家族の帯同も認められる。
レポートは、この制度変更により「特定技能2号」へ移行する外国人が増えれば、それは実質的な「定住化」の促進であり、外国人人口のさらなる増加要因になると分析する。
経済への影響:IMFの分析
そもそも、外国人労働者の流入は、日本経済にプラスなのか。
IMF(国際通貨基金)の2020年の分析によれば、「秩序ある」移民の受け入れは経済にプラスの効果をもたらす。先進国において総雇用者数の1%だけ移民が増加した場合、1年目、5年目ともに「産出量」「労働生産性」「資本装備率」をおおむね押し上げる効果が示されている。自国民の雇用への明確なマイナス効果は見られない。
メリットは明確だ。
- 人手不足の解消: 特に労働集約型の産業(低賃金労働)を支える。
- 生産性の向上: 高技能人材がイノベーションを促進する。また、低技能労働を移民が担うことで、自国民がより高付加価値な産業へ労働移動できる。
- 財政基盤の強化: 若年層が多い移民は、税収や社会保障(年金など)の支え手となる。
もちろん、デメリットもある。短期的かつ大規模な流入は、一部の低技能層の賃金や雇用を圧迫する可能性がある。また、教育、医療、福祉といった社会的な受け入れインフラのコストも増大する。
重要なのは「秩序ある受け入れ」と、その「ペース」である。
産業現場の「改善」と「悪化」
日本の「現場」では、すでに外国人労働力が不可欠な存在となっている。厚生労働省によれば、外国人労働者数は2024年に230万人を突破した。
特に増加が著しいのは、製造業、宿泊・飲食業、建設業だ。
レポートは、産業別の「欠員率(=人手不足の度合い)」と「外国人労働者比率」を比較している。
- 宿泊・飲食業: 2018年から2024年にかけ、外国人労働者比率は4.3%から5.6%へ上昇。同期間、深刻だった欠員率は5.9%から4.4%へと「やや改善」した。
- 建設業: 外国人比率は1.7%から4.8%へと大幅に上昇。欠員率も5.5%から4.2%へ「改善」している。
- 医療・福祉(介護): 状況は深刻だ。介護需要は増え続ける一方、資格や語学のハードルが高く、外国人比率は0.8%から1.5%と微増に留まる。結果、欠員率は2.8%から5.8%へと「大幅に悪化」している。
現場からは「外国人がいなければ立ち行かない」という悲鳴が上がる。2025年7月、全国知事会が「多文化共生社会の実現に国が責任をもって取り組むこと」を求める提言を行った背景には、特に地方圏の深刻な人手不足がある。
顕在化する社会的「あつれき」
経済的なメリットの一方で、欧米と同様、日本でも「社会的なあつれき」が注目され始めている。2025年7月の参院選では、外国人問題が大きな争点となった。
SNS上では、「社会保障のタダ乗り」「治安の悪化」といった言説が拡散された。レポートは、ファクトチェックの重要性を指摘している。
- 社会保障: 生活保護受給者に占める外国籍の割合は3%程度(一部の誤情報では3割とされた)。国民健康保険の未納額は日本人を含め年間約1,500億円だが、留学生の未納などで外国人の納付率は約6割と、日本人(約9割)より低い水準にあるのは事実だ。
- 治安: 外国人検挙人数は横ばい、犯罪率は低下基調にある。ただし、一部の外国人コミュニティの問題や技能実習生による犯罪が注目を集めた。
- その他: 円安もあり2024年の海外投資家による不動産購入額は63%増となった。オーパーツーリズム(観光公害)や免税制度の悪用も問題視されている。
政府も対応を急いでいる。税金や社会保険料の未納者に対する在留審査の厳格化、経営ビザの厳格化(資本金500万円→3,000万円)、2024年の入管法改正による難民申請3回目以降の強制送還の開始、外国免許からの切り替え試験の厳格化など、対策を打ち始めた。
日本は島国であり、欧米(外国人比率10%超の国が多い)に比べ文化的・民族的な同質性が高い(2020年時点で外国人比率2%)。それゆえに、外国人受け入れに関する国民的な議論が不十分であったとレポートは指摘する。
データとAIによる解決
DBJレポートが示す処方箋は、二つある。
第一に、感情論や誤情報ではなく、正確な「実態とデータ」を広く社会に周知すること。外国人が経済や社会にどのような貢献をし、どのようなコストが発生しているのか。その事実をベースに、国民的な理解を得ることが不可欠である。
第二に、外国人労働者「だけ」で人手不足を補うことには限界があると知ることだ。
新興国の所得が向上し、高齢化が進めば、将来的に「日本で働きたい」と考える若者自体が減少する可能性もある。
我々が今すぐ取り組むべきは、AI、ロボット、自動化技術の活用を最大限に進めること。それらと、秩序ある外国人労働者の受け入れを組み合わせた「包括的な解決策」の検討である。
2040年の「外国人1割社会」は、もう遠い未来の話ではない。日本のビジネスパーソンは、この構造変化を前提とした事業戦略を、今こそ描く必要がある。




