百貨店、7ヶ月ぶり浮上。光と影を読む

2025年8月、日本百貨店協会が発表した全国百貨店売上高は、総額約4139億円に達し、前年の同じ月と比較して2.6%増加しました 。この数字は、7カ月ぶりに前年実績を上回るものであり、長く続いたマイナス成長からの脱却を示す明るい兆しと受け止められています。しかし、その内訳は国内市場が3.5%増と回復を牽引した一方、インバウンド(免税)売上は4.7%減と明暗が分かれる結果となりました 。この数字の裏にある変化を読み解きます。

猛暑と帰省が支えた「国内回帰」

国内市場の回復は、複数の追い風が重なった結果です。記録的な猛暑がTシャツや日傘といった夏物商品の売上を押し上げました 。また、前年に比べ休日が1日多かったことや、台風で売上が落ち込んだ前年の反動もプラスに作用しました 。さらに、お盆の帰省シーズンには手土産用の菓子(5.1%増)や、レストランでの外食(4.4%増)といった「ハレの日消費」が活発になり、全体の売上を支えました 。

客は最多、でも売上減。「爆買い」後のインバウンド

インバウンド消費は、複雑な様相を呈しています。免税手続きをした客数は約49万4000人と8月としては過去最高を記録したにもかかわらず、売上総額は減少しました 。原因は、一人あたりの購買単価が約8万9000円と、前年から12.4%も下落したためです。

かつてのような高級ブランド品の「爆買い」は影を潜め、時計などを含む「一般物品」の売上は8.7%減少しました。その一方で、化粧品や食料品などの「消耗品」は18.5%増と大幅に伸びています。これは、訪日客の消費スタイルが、高品質な日本製品を厳選して購入する「目利き消費」へと質的に変化したことを示しています。

明暗分けた地域差。万博の大阪、伸び悩む東京

全国一律の回復ではなく、地域による差も鮮明になりました。特に大阪地区は、万博効果で売上が9.6%増と突出した伸びを見せました 。一方、日本最大の市場である東京地区は2.3%減と、依然としてマイナス圏から抜け出せていません 。大規模イベントが地域経済に与える影響の大きさが浮き彫りになりました。

百貨店の次の一手は?

今回の回復は、天候などの一時的な要因に支えられた面も大きいのが実情です。商品別に見ても、化粧品や宝飾品といった「プチ贅沢」は好調ですが、家具(14.5%減)のような高額な耐久消費財は不振が続いており、消費の二極化が進んでいます 。

百貨店業界が持続的に成長するためには、国内の優良顧客との関係を深めると同時に、「爆買い」から「目利き消費」へと変化したインバウンド需要に的確に対応することが不可欠です。画一的な戦略ではなく、各地域の特性を活かしながら、新たな消費の形に合わせた価値を提供できるかが、今後の鍵を握るでしょう。

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