自民党総裁が高市氏になったせいで、つい数日前までさらなる円安が進むと予想されていた。つまりインフレがひどいことになるぞ、と。多くの日本国民にとっては、生活苦と、近未来の戦争まきこまれも含む、地獄の時代の始まりか、と。
しかし、この2025年10月10日の公明党連立離脱の影響で、高市氏が総理大臣にならない可能性が取り沙汰されている。1週間で逆回転した政治・経済の軸が、さらに逆回転を始めた。この大転換のタイミングをどう見るか?簡単に整理してみたい。

政治の激震:「高市ショック」から権力の空白へ
わずか1週間で、日本の政治と市場の前提が根底から覆された。自民党総裁選で高市早苗氏が勝利した直後、市場は「強いリーダー」の誕生と大規模な財政出動を見込み、株高・円安へと大きくポジションを傾けた。多くの海外投資家は別の候補者の勝利を予測していたため、この予想外の結果に慌てて戦略を組み替えたばかりだった。
しかし、その熱気は10月10日に突如として冷や水を浴びせられる。公明党が自民党との連立協議を打ち切ると表明したからだ。これは単なる政策の不一致ではない。長年にわたり日本の政権運営の土台であった自公連立の枠組みが崩壊し、高市氏が首班指名選挙で過半数を獲得する道筋が一気に不透明になった。市場が最も嫌う「権力の空白」が現実味を帯びた瞬間である。
この事態に海外の投資家は動揺を隠せない。「一体何が起きているのか」。ロンドンの金融街では、邦銀のストラテジストが海外の顧客からの問い合わせ対応に追われたという。つい先週まで「鉄の女」と期待された高市氏は、英国の市場関係者から厳しい評価を下されることになった。市場の信頼は、その基盤である政治の安定性が揺らいだことで、わずか数日で完全に失われたのである。

野党の奇策:「玉木総理」シナリオの浮上
自民党が権力基盤を失ったことで、これまで考えられなかったシナリオが急浮上している。立憲民主党と国民民主党が急接近し、野党統一候補として国民民主党の玉木雄一郎代表を首班指名する「玉木総理」構想である。
立憲民主党の安住淳幹事長は、自党の野田佳彦代表に固執せず「玉木さんも有力候補だ」と国民民主党側に打診。これに対し、玉木代表自身も「総理大臣を務める覚悟はある」と明言し、この動きは一気に現実味を増した。立憲、国民、維新、さらに連立を離脱した公明党までが足並みをそろえれば、計算上は過半数を確保し、非自民政権が誕生する可能性すら出てきた。
市場は、この野党連合が掲げる可能性のある政策、とくに国民民主党が主張する「消費税5%への引き下げ」を強く警戒している。これは大規模な減税であり、日本の厳しい財政状況をさらに悪化させかねない。財源の裏付けが不明確なポピュリスト的な政策は、日本国債の信認を揺るがし、金利の急上昇(債券価格の暴落)を引き起こす直接的なリスク要因と見る立場だからだ。

悪夢のシナリオ:「トリプル安」の仕組み
海外投資家がいま、最も恐れているのが「トリプル安」である。これは、日本の「株」「債券」「円」が同時に、連鎖的に暴落する最悪の事態を指す。政治の極度の不安定化は、この悪夢の引き金を引くのに十分な破壊力を持つ。
トリプル安のメカニズムは、信認の崩壊から始まる自己増殖的なパニックだ。
- 円安(円売り):日本の政治・経済に対する信認が失われ、海外投資家が日本から資金を引き揚げるために円を売る。
- 株安(株売り):円安が進行すると、ドルなど外貨建てで日本株を保有する投資家は、為替差損で資産価値が目減りする。実際、高市氏勝利後の株高局面でも、ドル建ての東証株価指数(TOPIX)は横ばいで、海外勢は利益を得られていなかった。損失拡大を恐れた投資家は、日本株を売却せざるを得なくなる。
- 債券安(債券売り):政治の混乱と財政規律の喪失懸念から、日本国債も売られる。債券価格が下落すれば、長期金利は急騰し、企業の資金調達コストや住宅ローン金利を押し上げ、日本経済全体に深刻なダメージを与える。
この3つの下落は互いに影響し合い、負のスパイラルを加速させる。欧州では、政権が不安定化したフランスで国債の格付けが引き下げられた事例があり、日本も同じ道を辿るのではないかとの懸念が広がっている。

追い打ちをかける世界同時株安の「完璧な嵐」
日本の国内危機は、最悪のタイミングで世界的な市場の動揺と重なった。トランプ米大統領が、中国によるレアアース関連技術の輸出規制への対抗策として「100%の追加関税」を課す意向を示したからだ。米中貿易戦争の再激化懸念から、世界の金融市場は一斉に「リスクオフ」モードに突入した。
- リスクオフとは:投資家が経済や政治の先行き不安から、株式などのリスクが高い資産を売り、国債や現金といった安全資産に資金を退避させる動き。
この影響は絶大だった。10日の米国市場では、ダウ工業株30種平均が前日比で878ドルも値を下げた。さらに深刻なのは、連休中の日本の夜間取引で、日経平均先物が一時2440円安(5.1%安)の4万5180円まで急落したことだ。これは、連休明けの東京市場が取引開始と同時に、この下落分を織り込むことを意味する。
以下の表は、なぜ10月14日の市場が極めて危険な状況にあるかを示している。
要因の種類 | 具体的な内容 | 市場への影響 |
---|---|---|
国内政治 | 自公連立の崩壊。安定政権の不在。未知数の野党連合の台頭。 | 政策の極端な不確実性。日本の政治安定性への信認崩壊。 |
国内経済 | 「トリプル安」の脅威。財政拡張的な政策による国債市場への圧力。 | 資本逃避、通貨安、国債金利上昇リスクの増大。 |
世界経済 | 米中貿易戦争が激化。トランプ氏が「100%追加関税」を示唆。 | 世界的な「リスクオフ」環境の醸成。貿易依存度の高い日本経済への打撃。 |
市場テクニカル | NYダウが878ドル下落。日経平均先物は夜間取引で既に2440円(5.1%)下落済み。 | 東京市場の取引開始前に、巨大な売り圧力が確定している状況。 |
国内の政治危機と世界的なリスクオフが同時に発生したことで、日本は「完璧な嵐」に見舞われている。世界中の投資家がリスク資産を売却しようとする中で、統治機能が麻痺した日本の資産は、真っ先に売却対象となるだろう。

渦中で見極めるべき3つの指標
連休明け10月14日の日本株市場が、大幅な下落に見舞われる可能性は極めて高い。問題は「下がるかどうか」ではなく、「どこまで、どれほどの速さで下がるか」である。夜間取引での先物の急落は、すでにその予兆を明確に示している。
この混乱の渦中を乗り切るために、注視すべき指標は3つある。
- 首班指名選挙の行方:誰が次の総理大臣になるのか。政治の安定回復への道筋が見えるかが最大の焦点である。
- ドル円為替レート:海外投資家の日本に対する信認を最も敏感に映す鏡。円安がさらに加速するかどうかが、パニックの度合いを示す。
- 長期金利(10年国債利回り):日本の財政に対する市場の信認を示す。この金利が急上昇するようなら、トリプル安の最終段階が始まったサインであり、経済全体への影響は計り知れない。
この数日間は、日本経済の行方を左右する極めて重要な局面となるだろう。

先物は大暴落したのですが、連休で沈静化。むしろ上げで始まった日本株でした。