イオン系列の都市型小型スーパー「まいばすけっと」が、猛烈な勢いで店舗数を増やしています。2025年9月26日には新たに4店舗がオープンし、総店舗数は1270店に達しました。さらに、2026年2月までの1年間で150〜200店もの新規出店を計画しており、将来的には5,000店舗体制を目指すという壮大な目標を掲げています。
なぜいま、「まいばすけっと」はこれほどまでに受け入れられ、拡大を続けているのでしょうか。その背景には、日本の社会構造の変化と、徹底的に効率化された独自のビジネスモデルがありました。

社会の変化が生んだ「お店がすぐそこ」という価値
まいばすけっとの成功を理解する上で欠かせないのが、日本の社会が抱える二つの大きな変化、「単身世帯の増加」と「高齢化」です。
かつて主流だった「夫婦と子供」という世帯は減少し、2040年には全世帯の約4割が一人暮らしになると予測されています 5。また、2023年10月時点で日本の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は29.1%と過去最高を記録し、今後も上昇が続くと見られています。
こうした社会では、車で郊外の大型スーパーへ行き、一週間分の食料をまとめ買いするという従来の買い物スタイルが難しくなります。とくに、免許を持たない高齢者や、仕事で忙しい単身者にとって、自宅から歩いて行ける距離に食料品店があることの価値は非常に大きいのです。
この問題は「買い物弱者」という言葉で知られています。農林水産省の推計によれば、スーパーなどが遠く、日常の買い物に不便を感じる人々は全国に数百万人規模で存在するとされています 8。まいばすけっとは、商圏を半径300mから500m程度に設定し、まさにこの「歩いて行ける距離」に集中的に出店することで、現代都市のニーズに応えているのです。

「繁盛店をつくらない」という逆転の発想
まいばすけっとの強みは、社会のニーズに応えただけではありません。その成長を支えているのは、他のスーパーやコンビニとは一線を画す、極めて効率的な店舗運営の仕組みです。
ドミナント戦略
特定の地域に集中して店舗を出すことで、その地域での認知度や影響力を高め、物流や人員配置の効率を上げる経営戦略のことです。
まいばすけっとは、このドミナント戦略を徹底しています。時にはわずか100m先に別の店舗があるほどです。これには「あえて繁盛店をつくらない」という驚きの狙いがあります。近くに複数の店舗があれば、お客さまが分散し、一店舗が混雑しすぎるのを防げます。
これにより、いつ店を訪れてもレジの待ち時間が短く、商品はきちんと補充されています。そして、店舗側は常に2〜3人という最小限のスタッフで運営できるため、人件費を大幅に抑えることができるのです。
さらに、まいばすけっとの店舗は、コンビニのような公共料金の支払いや店内調理といった複雑なサービスを省いています。バックヤード(在庫置き場や作業場)も、通常のスーパーが店舗面積の約3割を占めるのに対し、1〜2割にまで縮小。これにより、家賃の高い都市部でも、売場面積を最大限に確保しつつ、低コストでの運営を可能にしています。

イオングループの力が支える「安さ」と「便利さ」
まいばすけっとのもう一つの大きな武器は、イオングループの一員であることです。
多くの人が感じる「コンビニより安い」という価格設定の秘密は、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」にあります。グループ全体で開発・製造されるトップバリュ製品は、品質を保ちながら価格を抑えることができます。まいばすけっとでは、このトップバリュ製品を積極的に導入しており、店舗によっては商品全体の約5割を占める実験店も登場しています。これにより、価格競争力を高めると同時に、利益もしっかり確保しているのです。
また、商品の配送もイオングループの巨大な物流網を活用しています。AIを活用した最適な配送ルートや、グループ共同での商品仕入れにより、小さな店舗へ効率よく商品を届け続けることが可能です。この強力なバックアップがあるからこそ、まいばすけっとはあれだけの店舗数を維持し、さらに増やし続けることができるのです。
業態比較 | まいばすけっと | コンビニエンスストア | 一般的なスーパー |
---|---|---|---|
主な強み | 近さ、価格(とくに生鮮品) | 24時間営業、多機能サービス | 品揃えの豊富さ |
価格戦略 | 毎日低価格(EDLP) | 定価販売が中心 | 特売・セールを多用 |
生鮮食品 | 豊富(売上の約30%) | 限定的だが強化傾向 | 主力商品 |
運営効率 | 非常に高い(省人化、標準化) | 高い(FCモデル) | 比較的低い(人手が必要) |

未来の「食のインフラ」へ
高齢化と単身世帯化が進む日本の都市部において、「まいばすけっと」は単なる小さなスーパーではなく、日々の暮らしを支える「食の社会インフラ」としての役割を強めています。
コンビニの利便性とスーパーの品揃え・価格を両立させた独自のモデルは、現代社会が抱える課題への一つの答えと言えるでしょう。5,000店舗という壮大な目標は、この新しいインフラを日本中の都市へ張り巡らせようというイオンの強い意志の表れなのかもしれません。あなたの街の「まいばすけっと」も、気づけばもっと身近な存在になっていることでしょう。
