米中は「AIエージェント争奪戦」、日本は「現場効率化」――小売AI活用に広がる温度差

米国と中国の小売業界では、AIエージェントが顧客の購買導線そのものを奪い合う競争が激化している。一方、日本の小売現場でのAI活用は、発注や売場管理といった店舗オペレーションの効率化にとどまっているのが実情である。この2週間の動きを追うと、その差は一段と鮮明になっている。

米国:プラットフォーム覇権をかけたエージェント競争

米国では、AIチャットが「発見から購入まで」を担う入口となるかどうかを巡り、巨大テック企業と小売大手が主導権争いを繰り広げている。

AmazonはAWS経由で「Agentic Shopping Assistant(ASA)」を外部小売業者に開放し、自社のAlexa for Shoppingで培った技術をKate Spadeなどに提供済みだ。Walmartは「Sparky」「Marty」といった社内向けAIエージェント群に加え、Google Geminiおよび OpenAIのChatGPTとも連携し、複数の入口から顧客接点を確保する戦略をとる。GoogleはUCP(Universal Commerce Protocol)という業界標準規格の提唱にも動いており、決済までAIが仲介する「エージェンティックコマース」の主導権を狙う構図が続く。

一方でOpenAIは、ChatGPT内で決済まで完結させる「Instant Checkout」から事実上撤退し、商品の発見・比較機能に軸足を移した。売上税対応や在庫連携の技術的な壁、実際に稼働した加盟店の少なさなどが要因とされる。7月9日には新モデル「GPT-5.6」も発表されており、ショッピング機能の精度向上に今後どう反映されるかが注目される。

Costcoはプリスキャン・自動精算パイロットで決済時間を約8秒まで短縮し、AIによる商品レコメンドが四半期で数億ドル規模の売上に寄与したと説明する。Targetも需要予測AIで在庫精度を高め、想定を上回る売上でも欠品を抑えたとしている。いずれも「顧客がどこで買うか」を左右する土俵での投資という点で共通する。

中国:エコシステム連携とAI人材の争奪

中国でも構図は近い。Alibabaは3年間で3800億元規模をAI・クラウド基盤に投じる方針を掲げ、傘下サービスをAIブランド「Qwen」に統合しつつある。7月上旬にはこの期待を材料に株価が急伸し、AIクラウド関連収益の伸びが投資家心理を左右する状況が続く。

JD.comはオープンソースの推論エンジン「Oxygent」で小売業務の効率を大幅に引き上げたと発表するほか、物流AI、パーソナライズ推薦エンジン、企業向けAI導入基盤など多層的にAI技術を展開している。またTencentとのエコシステム連携も進み、消費者向けAI活用が規模化の段階に入ったとの指摘もある。

これまでAI戦略について目立った発信を避けてきたPinduoduo(拼多多)も、7月に入って自社サイト上のAI関連採用ポジションを急増させており、静観から参戦へと姿勢を転じつつある。端末上で動く「端側AI」マーケティング市場も急拡大しており、IDCは2026年に世界市場が180億ドルを超えると予測する。

日本:現場効率化にとどまるAI活用

対照的に、日本の小売各社が発表する事例の多くは、顧客接点よりも店舗運営の効率化に重心がある。ファミリーマートは防犯カメラの映像とAI画像解析を組み合わせた「AI売場スコアリング」の実証を進め、売場の状態を数値化して発注やスーパーバイザーの業務効率化に役立てている。7月16日には、イオンとファミリーマートが「IT Strategy Summit 2026」に登壇し、ボトムアップで進めてきたAI活用施策の裏側や現状の課題について議論した。いずれも、現場のオペレーション改善という枠組みの中での取り組みである。

米中のようにAIが顧客の購買意思決定そのものに介在し、どのプラットフォーム経由で商品が売れるかを左右する競争は、日本国内ではまだ本格化していない。人手不足への対応という切実な事情が先にあることは理解できるが、海外でエージェント経由の購買が広がれば、日本の消費者の情報収集行動にも波及する可能性は高い。発注・売場管理の効率化を積み上げつつ、次の一手として「AIがどこで顧客と接点を持つか」という視点を持てるかどうかが、今後の分かれ目になりそうだ。

info@retail-spy.com
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