ベトナム市場を海外展開の最重点国と位置づけるイオングループが、新たな展開を見せている。同グループは2026年7月3日、ベトナム中部の中核都市ダナンに初出店となる「イオンモール ダナン タンケー」を本格開業した。本記事では、ダナン初進出の狙いと、同社が描く2030年度に向けたベトナム事業の成長戦略を分析する。
1. 施設概要:ダナン初の都市型モール「イオンモール ダナン タンケー」
「イオンモール ダナン タンケー」は、ベトナムにおけるイオングループのショッピングセンター(SC)8号店である。
基本データ
- 施設名称:イオンモール ダナン タンケー(AEON MALL Da Nang Thanh Khe)
- グランドオープン日:2026年7月3日
- 所在地:ベトナムダナン市タンケー区ディエンビエンフー通り46号 グエンキム コンプレックス ビルディング センター1〜4階
- 総賃貸面積(GLA):約21,000㎡
- 専門店数:54店舗
- 駐車台数:バイク約1,800台、自動車約430台
- 核店舗:イオン ダナン タンケー店(都市型スーパーマーケット、店舗面積約3,100㎡)
2. データから分析する「3つの戦略的転換点」
従来のイオンモールは、広大な敷地を自社開発する郊外型巨大SCが主軸であった。しかし、このダナン タンケーは、ベトナム戦略において大きな転換点となる特徴を備えている。
① ベトナム初の「複合施設テナント型」出店
本施設は、ベトナムの複合企業TTCグループが開発する商業・ホテル・オフィス・アパートメントからなる複合ビルの低層商業エリア(1〜4階)を借り上げて出店した。自社で土地を取得して一から建設する従来型と比較し、初期投資コストを大幅に抑制でき、開業までのリードタイムを短縮できるアセットライトなモデルである。
なお、開発主体のTTCグループは、Sacombank(サイゴン・トゥオンティン銀行)共同創業者ダン・ヴァン・タイン氏が率いる、約半世紀の歴史を持つベトナムの大手コングロマリットである。製糖(国内市場シェア約40%)、再生可能エネルギー、不動産、ホスピタリティ(3〜4つ星ホテル・リゾート約20施設)、教育(17校)など多角展開しており、不動産開発子会社TTCランドも20年以上の実績を持つ。今回の「借り上げ出店」は、信用力の低い開発業者に依存するリスクではなく、地場の有力資本との提携という位置づけであり、アセットライトモデルの持続可能性を後押しする要素といえる。
② ダナン初のブランドを集積した高密度なテナント構成
総賃貸面積は約21,000㎡と、同社がベトナムで運営する旗艦モール「タンフーセラドン店」(2019年の増床リニューアルで敷地面積を2倍に拡大)と比べると、なお小規模にとどまる。しかし、コンパクトな館内に54の専門店を凝縮した。特筆すべきは、出店専門店の約半数がダナン市への初進出ブランドである点だ。日系ブランドからは、ベトナム国内で絶大な支持を集める「ユニクロ」や「無印良品」がダナン初上陸を果たしたほか、眼鏡ブランドの「JINS」が中部エリアに初出店した。
③ デジタル技術の活用による都市型ライフスタイルの提案
限られた空間における利便性と快適性を向上させるため、館内には25台のデジタルサイネージや、モバイルアプリと連携して手荷物を安全に保管できる顔認証対応の「スマートロッカー」を導入している。さらに4階の吹き抜け空間には、全長20メートルの「ライトブリッジ」を設置し、LEDスクリーンによる演出でエンターテインメント性を高めている。
3. 核店舗:都市型スーパー「イオン ダナン タンケー店」
モールの核として機能するスーパー・スーパーマーケット(SSM)「イオン ダナン タンケー店」は、イオンベトナムが展開するSSM業態の5店舗目となる。店舗面積は約3,100㎡であり、伝統市場や競合スーパーとの差別化を図るため、以下の3つの強みを提示する。
- 品質と安心の提供:厳格な管理基準に基づいた生鮮食品、プライベートブランド「トップバリュ」商品、および日本からの輸入食品のラインナップ。
- 即食・デリカ領域の拡充:寿司、弁当、海鮮丼、デザートを豊富に揃え、都市生活者の多様な惣菜ニーズに対応。
- 利便性の向上:セルフレジや多様なモバイル決済手段を完備。
4. 深層分析:2030年度「30店体制」へのロードマップと勝算
イオンモールは2030年度末までに、ベトナム国内のSCを現在の8カ所から約4倍となる30カ所まで拡大する方針を掲げている(※これはSC単独の目標であり、イオングループ全体では2026年5月発表の新中期経営計画において、GMS・スーパーマーケット・コンビニ等を含む全フォーマット合計で300店舗体制を目指す方針も別途示されている)。この目標の背景には、ベトナム市場の成長性と、競合を意識した戦略が存在する。
背景1:地方都市における「1番立地」の争奪戦
ベトナム市場では、優良立地の獲得競争が既に激化している。実際、ダナン市内には、ベトナム最大財閥ヴィングループの「ビンコムプラザ ダナン」(2016年開業、ハン川沿いの一等地)、韓国ロッテグループの「ロッテマート ダナン」(5階建て約24,000㎡)、タイ資本セントラル・リテール系列の「GO! ダナン」(旧ビッグC)などが先行して出店しており、越・韓・タイの3カ国資本が地場の優良立地を分け合う構図となっている。ハノイやホーチミンといった大都市に比べ、地方都市は人口や購買力の観点から出店余地が限られるため、先んじて「1番立地」を確保することが最重要課題となる。今回導入された「複合ビルの商業エリア借り上げ方式」は、自社開発が困難な都市中心部や地方の主要エリアへの機動的な出店を可能にする強力な武器となる。イオンはこれらの先行組とは一線を画す「都市型スーパー+日系専門店+トップバリュ」という編成で、価格訴求型のGO!や観光客需要中心のビンコムとは異なる客層を狙う戦略とみられる。
背景2:最重点国への投資集中と高成長率
イオングループが2026年5月に発表した新中期経営計画(2026〜2030年度)では、ASEAN向け投資全体の約6割をベトナムに配分する方針を示している。同計画では、ベトナム事業の営業収益を2026年度の1,200億円から2030年度には3,000億円超(約2.5倍)へ拡大させる目標を掲げており、営業利益は約4倍への拡大を目指す。今回のダナン初進出にとどまらず、2026年度中には北部エリアのタインホアや、一大観光地であるハロンでのSC開業も控えている。
5. まとめ:アセットライトな複合型開発がもたらす革新
「イオンモール ダナン タンケー」の開業は、中部エリアへの拠点獲得という地域的な拡大以上の意味を持つ。投資効率を高め、限られた経営資源で出店ペースを最大化する「複合施設テナント型」という新たな開発モデルの実証実験としての側面が強い。信用力のある地場資本TTCグループとの提携により、このリスクは一定程度抑制されているとみられる。このモデルが市場に受け入れられれば、2030年度末の「30店体制」という野心的な目標の実現可能性は格段に高まる。ただし、ダナン市場にはヴィングループ・ロッテ・セントラル・リテールという越・韓・タイ3カ国資本が既に地盤を築いており、アセットライトな多店舗展開を進めるイオンが、この競争環境下でどのような支配力を築いていくのか、今後の出店動向が注目される。




