破産申請の経緯
2026年1月13日、Saks Global Enterprises LLCおよび約113の関連法人が、テキサス州南部連邦破産裁判所にChapter 11(連邦破産法第11章)を申請した。これはNeiman Marcus買収からわずか13カ月後の出来事だ。
Chapter 11とは、事業を継続しながら負債を再編する米国の破産手続きである。日本の民事再生法に近い。清算(廃業)ではなく、「再建」を目指す点がポイントだ。
破綻の直接原因は、Saks Fifth Avenueを傘下に持つ親会社が2024年に約27億ドル(約4,000億円)でNeiman Marcusを買収した際、その資金調達に22億ドル分のジャンク債(低格付け社債)を充てたことだ。資金が枯渇し、仕入れ先への支払いが滞った。仕入れ代金が払えなければ商品が届かない。商品がなければ売上が立たない——負の連鎖が止まらなかった。
閉店ラッシュ:2段階で合計24店舗が消える
閉店は2段階で進んでいる。
第1弾(2月10日発表): Saks Fifth Avenue 8店舗(アラバマ州バーミングハム、オハイオ州コロンバス、ニュージャージー州、ニューオーリンズ、フィラデルフィア、フェニックス、バージニア州リッチモンド、オクラホマ州タルサ)とNeiman Marcus 1店舗(ボストン)の計9店舗を閉鎖すると発表。
第2弾(3月6日発表): さらにSaks Fifth Avenue 12店舗とNeiman Marcus 3店舗の計15店舗を追加閉鎖すると発表。閉鎖対象にはシカゴ・マグニフィセント・マイルの旗艦店、メリーランド州チェビー・チェイス、ラスベガス、セントルイスなど主要都市の高級立地が含まれる。
閉店セールは2026年3月13日から各店舗で開始。
2段階の閉店を合わせると、Saks Fifth Avenueは13店舗、Neiman Marcusは32店舗が残ることになる。ニューヨーク五番街の本店は存続する。
オフプライス事業はほぼ全廃
正規価格店の整理だけではない。アウトレット業態であるSaks Off 5thも57店舗を閉鎖。5店舗あった最終値下げ業態「Last Call」とオンライン家具サイト「Horchow」も廃止する。
オフプライスとは、定価より大幅に安く商品を販売するアウトレット・ディスカウント業態のこと。Saks GlobalはSaks Fifth Avenueという高級ブランドを守るため、廉価業態を切り捨て、純粋な「ラグジュアリー」に経営資源を集中させる戦略に転じた。
5年計画と資金調達
Saks Globalは破産申請時に総額17億5,000万ドルの新規融資枠を確保。そのうち最後の3億ドルの拠出が3月に承認された。同社のCEO Geoffroy van Raemdonckは、「調整後EBITDAで2桁マージン達成」「持続的な収益成長」を目標とする5年計画を発表した。
EBITDAとは、利子・税金・減価償却前利益のこと。企業の本業での稼ぐ力を示す指標だ。「2桁マージン」とは売上高の10%以上を本業で稼ぐことを意味する。
この5年計画はすでに社債権者の特別委員会に承認されており、今後数週間以内に詳細な再建計画が破産裁判所に提出される予定だ。
仕入れ先との関係修復も急ピッチ
倒産時に取引停止した仕入れブランドへの対応も進んでいる。現時点で600ブランドが商品の出荷を再開しており、14億ドル相当の商品が流通。前年同期比で商品入荷が約60%増加している。
何が失敗だったのか
業界関係者はこの破綻を「紙の上では強く見えたが、実態は両社とも財務体質が脆弱であり、SaksがNeiman Marcusを買収することで負債を二重に抱え込んだ構図」と分析している。
規模の拡大による相乗効果を狙った大型M&A(企業買収合併)が、資金繰りの悪化という基本的な経営課題を解決するどころか、加速させた典型例と言える。
まとめ
Saks Globalはこの破産再建を通じ、「富裕層顧客の集積度が最も高い市場に絞った店舗網」へと刷新する方針を明言している。破産裁判所での手続きは進行中で、詳細な再建計画の提出が今後数週間以内に見込まれる。
米国高級百貨店の盟主が、わずか1年で自ら招いた負債の重みに耐えられなくなった。ラグジュアリー小売の「大きければ強い」という神話に、市場は明確な審判を下した。




