RIZAP・ミュゼのFC戦略に潜む課題。問われるビジネスモデルの持続可能性

RIZAP・ミュゼのFC戦略に潜む課題。問われるビジネスモデルの持続可能性

2025年5月30日

近年、パーソナルトレーニングジム市場で急成長を遂げたRIZAPグループが展開するコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」、そして脱毛サロン大手の「ミュゼプラチナム」が、相次いでフランチャイズ(FC)システムによる事業拡大へと大きく舵を切っている。

この戦略転換は、両社が直面する経営環境の変化や成長戦略の一環と見られる一方で、そのビジネスモデルの持続可能性や加盟店への影響について、慎重な分析が求められている。本稿では、両社のFC展開の背景と、そこに潜む潜在的な課題について考察する。

chocoZAP(RIZAPグループ):「成長加速」と「収益性確保」の両立なるか

RIZAPグループは、2024年5月15日に発表した2024年3月期決算において、chocoZAP事業のフランチャイズ展開を2025年3月期から本格化させる方針を明らかにした。

公式には「chocoZAPの更なる出店加速、ブランド認知度向上、多様な地域への展開」を目的として掲げている。

実際にchocoZAPは、2024年5月14日時点で1,522店舗、会員数は2024年3月末で116.1万人(うちアクティブユーザー108.3万人)に達するなど、驚異的なスピードで市場を開拓してきた(RIZAPグループ株式会社 2024年3月期 決算説明資料より)。

しかし、この急成長の裏で、RIZAPグループ全体の業績は依然として不安定さが否めない。

2024年3月期は最終赤字こそ縮小したものの、chocoZAP事業への大規模な先行投資が継続している。

過去には積極的なM&A戦略が必ずしも成功に結びつかなかった経緯や、業績予想の修正が市場の期待よりも遅れるといった事例も見られ、経営判断や情報開示の適時性については、投資家や市場関係者から厳しい視線が注がれることもあった。

chocoZAPのフランチャイズ募集LPには、「未経験でも安心」「省人化モデル」「低投資で早期回収」といった、加盟希望者にとって魅力的な文言が並ぶ。

しかし、市場環境が変化し、競争が激化する中で、これらの謳い文句通りの収益性を全ての加盟店が達成できるかは慎重に見極める必要がある。

特に、本部が直営で出店してきたエリアにおけるドミナント戦略の飽和や、初期の急成長が一段落した後の安定成長フェーズにおいて、FC加盟店が期待通りの成果を上げ続けることができるのか、という点は重要な論点となる。

本部が直営で採算ラインに乗せることが難しかった店舗やエリアが、FCという形で新たなオーナーに委ねられる可能性も考慮に入れるべきだろう。

そうなった場合、加盟店は当初の想定とは異なる厳しい事業環境に直面するリスクを抱えることになる。

ミュゼプラチナム:経営基盤の安定性と業界全体の課題

ミュゼプラチナムもまた、フランチャイズ展開を推進しており、特に「メンズミュゼ」ブランドでのFC募集が積極的に行われている。

ミュゼプラチナムは、過去に経営破綻を経験し、運営母体の変遷や事業譲渡など、経営体制の再構築を繰り返してきた経緯がある。

美容脱毛業界全体を見ても、新規参入企業の増加による競争激化、医療脱毛への顧客ニーズのシフト、広告表示に関する規制強化など、事業環境は決して楽観視できない状況が続いている。

このような経営環境下でのFC展開は、本部にとっては少ない自己資本で店舗網を維持・拡大し、加盟金やロイヤリティ収入によって短期的なキャッシュフローを改善する効果が期待できる。

しかし、加盟店にとっては、本部の経営基盤の安定性やブランド価値の維持が、事業の成否を左右する極めて重要な要素となる。

本部の経営戦略の変更やブランドイメージの変動が、加盟店の事業運営に直接的な影響を及ぼす可能性は常に念頭に置く必要がある。

フランチャイズ・システムにおける本部の役割と加盟店の権利

フランチャイズ・システムは、確立されたビジネスモデルとブランド力を活用して事業展開を目指す加盟店と、加盟店の資本や労働力を活用して事業規模の拡大を図る本部の双方にとって、合理的な仕組みとなり得る。しかし、その健全な発展のためには、いくつかの前提条件が不可欠だ。

  1. 検証された収益モデルの提供: 本部は、直営事業で十分に検証され、収益性が確認されたビジネスモデルをパッケージとして提供する責任がある。
  2. 透明性の高い情報開示: 加盟契約に際しては、事業のリスクも含めた正確かつ十分な情報が加盟希望者に提供されなければならない。収益予測や市場環境については、客観的なデータに基づいた現実的な見通しを示す必要がある。
  3. 継続的なサポート体制: 開業準備から運営、経営改善に至るまで、本部による質の高い継続的なサポートが不可欠である。
  4. 公正な契約条件: 加盟金、ロイヤリティ、契約期間、解約条件など、契約内容は双方にとって公正かつ合理的でなければならない。

本部がこれらの役割を十分に果たさず、短期的な資金調達や不採算事業のリスク転嫁を主たる目的としてFC展開を進めるような場合、加盟店は予期せぬ困難に直面する可能性が高まる。

例えば、本部の経営戦略の失敗が加盟店の収益悪化に直結したり、市場環境の変化に対応するためのサポートが得られなかったりするケースが考えられる。

フランチャイズ加盟におけるデューデリジェンスの重要性

RIZAP(chocoZAP)やミュゼプラチナムのフランチャイズ展開は、両社にとって新たな成長ステージへの挑戦であると同時に、そのビジネスモデルの持続可能性が問われる局面でもある。

特に、急速な事業拡大を目指す際には、加盟店の事業運営の安定性や収益性への配慮が不可欠となる。

フランチャイズというビジネスモデルは、成功すれば本部と加盟店の双方に大きな利益をもたらすが、その一方で、情報の非対称性や交渉力の格差から、加盟店が不利な立場に置かれるリスクも内包している。

したがって、フランチャイズへの加盟を検討する際には、募集広告の魅力的な言葉だけに目を向けるのではなく、本部の財務状況、事業の将来性、市場の競合環境、契約内容の詳細、そして既存加盟店の状況などを多角的に調査・分析する「デューデリジェンス(適正評価手続き)」が極めて重要となる。

フランチャイズ本部は、加盟店を単なる事業拡大の手段としてではなく、共にブランド価値を創造し、持続的な成長を目指すパートナーとして捉え、誠実かつ透明性の高い事業運営を行うべきである。

今後の両社のフランチャイズ戦略が、加盟店との健全なパートナーシップのもとで展開され、業界全体の発展に寄与することを期待したい。