ツルハ・ウエルシア経営統合について、いま起きていることをまとめてみると

ツルハ・ウエルシア経営統合について、いま起きていることをまとめてみると

巨大ドラッグストア連合の誕生

2025年末、ドラッグストア業界に大きな地殻変動が起きようとしている。業界2位のツルハホールディングス(以下、ツルハ)と業界1位のウエルシアホールディングス(以下、ウエルシア)が12月1日を目処に経営統合する予定だ。この統合によって誕生する企業グループは、売上高2兆3,000億円超、国内店舗数約5,600店舗を擁する「日本最大のドラッグストア連合体」となる。

統合は当初の予定より約2年前倒しで実施される。スキームとしては、ツルハがウエルシアを株式交換によって完全子会社化。その後、両社の大株主であるイオンが公開買い付け(TOB)を行い、統合後のツルハに対する持ち株比率を50.9%まで引き上げ、連結子会社化する計画だ。

この統合は、単に業界1位と2位の合併というだけでなく、イオングループを主軸としたヘルス&ウエルネス産業の再編という側面も持つ。イオンが統合後のツルハをグループのヘルス&ウエルネス事業の中核子会社として位置づけることで、総合小売りからヘルスケア領域での成長を加速させる狙いがある。

統合のねらいと期待されるシナジー

経営統合によるシナジー効果は3年で約500億円と見込まれている。この内訳は、ウエルシアとツルハの統合で400億円、イオンとの業務提携で100億円とされる。主なシナジー効果は以下の7つが挙げられている:

  1. ドミナント戦略の推進・店舗開発ノウハウの共有による収益性向上:特定地域への集中出店による認知度強化と効率化
  2. 海外展開の加速:イオンの海外事業拠点や調達網、システム・ノウハウを活用したアジア展開
  3. 商品等の調達における連携:合同商談や共同配送、共同販促の強化
  4. 電力の共同調達によるコスト削減
  5. 共同配送による配送ルートの最適化、配送コストの削減
  6. プライベートブランド商品の開発加速・品揃え強化による収益改善
  7. 調剤薬局事業における既存事業強化・新規事業展開による売上増

「日本のみならずアセアンをはじめとするグローバル規模において、人々の未病、予防、治療に従事し、健康寿命の延伸に貢献することで、地域生活者のより高次なヘルス&ウエルネスを実現する」ことが目標として掲げられている。

中期目標としては、2032年2月期の売上高3兆円、営業利益率7%、営業利益2,100億円が設定され、アジアNo.1のグローバル企業への成長を目指すとしている。

大株主オービスの反対と株主価値をめぐる論争

一方、この経営統合計画に対して、ツルハの株式を約9.7%保有する英国の投資ファンド「オービス・インベストメンツ」(以下、オービス)が反対姿勢を表明している。オービスは統合そのものには反対していないが、統合条件とTOB価格がツルハの企業価値を「著しく過小評価している」と批判している。

オービスの日本株責任者であるブレット・モーシャル氏は、「私たちは業界再編が進むことを長年の投資テーマの1つにしてきた。しかしながら、ツルハの価値を著しく過小評価する経営統合の条件と公開買い付け価格には強く反対している」と述べている。

主な争点は以下の3点である:

  1. 株式交換比率の妥当性:ウエルシア株1株に対してツルハ株1.15株(株式分割考慮後)を交付する現行の交換比率に対し、オービスは最低でも6.4倍相当が妥当だと主張
  2. TOB価格の適正さ:イオンの提示する1株当たり1万1,400円という価格に対し、オービスは「1株当たり最低でも1万7,500円、場合によっては2万円」が適正だと主張
  3. 親子上場の是非:オービスは「親子上場は時代錯誤だ」と批判し、イオンによるツルハの完全子会社化を求めている

オービスによれば、イオンは1年前に香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」からツルハ株を1株当たり1万5,500円で取得しており、業績が向上した現在はさらに高い価格が妥当だと主張している。また、ある私募投資ファンドは1株当たり最低1万7,500円を支払う用意があったとも指摘している。

これに対しツルハ側は、シナジー効果の実現や企業価値向上の観点から経営統合の意義を強調。5月26日に予定されているツルハの定時株主総会での承認を求めている。

議決権行使助言会社も統合に反対

経営統合計画に関しては、議決権行使助言会社のInstitutional Shareholder Services(ISS社)とGlass, Lewis & Co.(GL社)も反対の立場を表明している。ISS社は主に以下の理由を挙げている:

  1. 本資本業務提携ならびに本経営統合のプロセスが当社の株主に対価としてのプレミアムが付与されないまま支配権の移転をもたらすこと
  2. 本経営統合によってもたらす利益が、株主が手放す支配権に見合ったものとは言い難いこと
  3. 本株式交換が否決されても短期的には明確な実害が生じるとは考えにくいこと

これに対しツルハは、経営統合によるシナジー効果や企業価値向上の観点から、株主に賛同を訴えている。

ドラッグストア業界の現状と競争環境

日本のドラッグストア市場は、年々拡大を続けているが、既に国内市場は飽和状態に近づいている。両社の統合は、こうした成熟市場における競争力強化と、アジアを中心とした海外展開の加速を狙ったものと言える。

統合後の企業グループは、売上高シェアで約25%となり、業界での圧倒的なポジションを確立する。主要各社の売上高は以下の通り:

  1. 統合後のツルハグループ:2兆3,124億円
  2. マツキヨココカラ&カンパニー:1兆225億円
  3. コスモス薬品:9,649億円
  4. サンドラッググループ:8,908億円

収益性についても、ツルハはウエルシアよりも高い収益性を示しており、直近の営業利益率はツルハが約4.5%、ウエルシアは約2.8%となっている。統合により、両社は2032年2月期に営業利益率7%を目指すとしている。

公正取引委員会の承認と競争環境への影響

この大型統合計画については公正取引委員会も審査を行った結果、青森県や鳥取県などの一部地域で他社への店舗売却を条件として承認した。これは、地域によっては両社が寡占状態となり、競争制限的な効果が懸念されたためである。店舗譲渡はコンビニエンスストア会社など10店舗が対象となる。

消費者への影響と今後の展望

消費者にとっては、この統合によるメリットとデメリットの両面が考えられる。メリットとしては、両社の強みを活かした品揃えの充実や、規模のメリットを活かしたプライベートブランド商品の充実、調剤併設店舗の拡大などが期待できる。一方で、地域によっては競争の減少による価格上昇のリスクも懸念される。

長期的には、この統合をきっかけに、ドラッグストア業界の再編がさらに加速する可能性がある。特に地方の中小チェーンが大手に吸収されるケースが増え、業界の寡占化が進む可能性が高い。また、イオングループを中心とした小売業界全体の再編も視野に入れる必要がある。

日本のみならず、アジア、特に中国やASEAN諸国におけるヘルスケア市場も重要な成長領域となる。統合グループは、イオンのアジアでの事業基盤を活用し、域内での事業拡大を目指すとしている。

5月26日に予定されているツルハの株主総会での議決結果は、日本の小売・ドラッグストア業界の今後の方向性を大きく左右する重要なターニングポイントとなるだろう。